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大学二回生の初夏だった。
俺はオカルト道の師匠につれられて、山に向かっていた。
「面白そうなものが手に入りそうだ」と言われてノコノコついて行ったのであるが、彼の「面白い」は普通の人とは使い方が違うので俺は初めから身構えていたが、行き先がお寺だと知ってますます緊張してきた。
なんでも、知り合いの寺なのだとか。そちらから連絡が入ったらしい。
市内から一時間以上走っただろうか。師匠は「ここだ」と言いながら、道端に軽四を止めた。
周囲は畑に囲まれていて、山間に午後の爽やかな風が吹いている。
古ぼけた門をくぐり、地所に入るとささやかな杉木立の向こうに本堂があり、脇に設けられた庭園には澱んだような池が音もなく風紋を立たせていた。
「真宗の寺だよ」 と師匠は言った。
山鳩が鳴いて、緑の深い森に微かな羽ばたきが消えていく。右手に鐘楼堂が見えたが、屋根が傾き、肝心の鐘が見当たらない。打ち捨てられているようだ。
「あれは鐘が戦時中に供出されてからそのままらしい」
師匠の説明に顔をもう一度そちらに向けた瞬間、目の端になにか白いものが映った気がして、先へ進む師匠を追いかけながら首を捻ってあたりを見回したが何も見当たらなかった。
その白いものが服だったような気がして、少し気味悪くなった。境内には誰もいないと思っていたから。
師匠はズンズンと本堂から反れて平屋の建物の方へ向かっていった。
住職の住む家らしい。庫裏(くり)というのだったか。
玄関の方へ回ろうとすると「こっちこっち」という声がして裏手の方から手招きをしている人がいる。随分背の高い男性だ。俺と師匠は裏口から招き入れられ、居間らしき畳張りの部屋に通された。
「親父さんは?」 師匠の問いに「出てる。パチンコじゃねえか」と男性は答えて、「じゃあ、例の、持ってくる」と部屋を出て行った。
二人取り残されてから、俺は師匠をつついた。
「あの人は黒谷さんっていう、悪い人。親父ってのがこの寺の住職。やっぱり悪い」
なにせこの僕に、供養を頼まれた物品を売りつけようってんだから。 ニヤニヤと笑う。
俺は先日見せてもらった心霊写真の束を思い出した。あれも確か業者から買った横流し品だと言っていたはずだ。
「ああ、ここから直で買ったのもあるよ。まあ、一応ここは御焚き上げ供養の隠れた名寺ってことになってるから、そこそこ数が集まってくる」
でもまあ、本物は一割以下だね。
師匠はそう言いながら、部屋の中に無造作に飾られた市松人形や掛け軸などを勝手に弄りまわっている。
やがて黒谷と呼ばれた男性が戻ってきて、紙袋を師匠の前に置いた。
師匠が手を伸ばそうとすると、黒谷さんはスッと紙袋を引き下げて手の平を広げた。
五本の指を強調するようにウネウネと動かしている。
「五本は高い」 師匠が口を尖らせると、黒谷はボサボサの頭を掻きながら
「あ、そ」と言って紙袋を持って立ち上がろうとする。
910 :ビデオ 前編3:2009/08/06(木) 17:58:17 ID:TB5fOCDV0
「持って来たのはどんな人ですか」 間髪いれずに師匠が問うと、中腰のまま「中年のご婦人。
深い帽子にサングラス。住所不明。姓名不明。ブツの経緯も不明。でも供養料に足の指まで全部置いてった」と答える。
「二十本も?」 師匠が険しい顔をした。そして「わかりました」と言ってジーンズのポケットから出した財布を放り投げる。
黒谷は財布をキャッチして、紙袋をこちらによこした。
師匠は紙袋を覗き込み、小さく頷く。俺も思わず横から割り込むように覗いた。
袋の中に、一本の黒いビデオテープが見えた。
「足りねえ」 黒谷の声に、師匠がばつの悪そうな顔をして「今度持って来ます」と言う。
「今度っていつだ」気まずい雰囲気が部屋に流れる。
そんな空気を打ち壊したのは、他ならぬ寺生まれで霊感の強いTさんだった。
Tさんは部屋に入ってくるなり「破ぁっ!」と叫び、守礼門が描かれた紙幣を25枚、黒谷に差し出したのだ。
「立て替えてくれるのか?ありが…」師匠がお礼を言い終わるより早く、Tさんはビデオの入った紙袋をひったくった。
「神聖な寺の中で、学生にビデオを売りつけるなんてけしからん!しかも5万だと?なんていかがわしいんだ。これは俺が預かっておくからな!」
そう怒鳴ったTさんは呆然としている俺たちを残して、大事そうに紙袋を抱え部屋から出ていった。
寺生まれってやっぱり凄い。この時はまだ、そうは思えなかった。
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玄関の方へ回ろうとすると「こっちこっち」という声がして裏手の方から手招きをしている人がいる。随分背の高い男性だ。俺と師匠は裏口から招き入れられ、居間らしき畳張りの部屋に通された。
「親父さんは?」 師匠の問いに「出てる。パチンコじゃねえか」と男性は答えて、「じゃあ、例の、持ってくる」と部屋を出て行った。
二人取り残されてから、俺は師匠をつついた。
「あの人は黒谷さんっていう、悪い人。親父ってのがこの寺の住職。やっぱり悪い」
なにせこの僕に、供養を頼まれた物品を売りつけようってんだから。 ニヤニヤと笑う。
俺は先日見せてもらった心霊写真の束を思い出した。あれも確か業者から買った横流し品だと言っていたはずだ。
「ああ、ここから直で買ったのもあるよ。まあ、一応ここは御焚き上げ供養の隠れた名寺ってことになってるから、そこそこ数が集まってくる」
でもまあ、本物は一割以下だね。
師匠はそう言いながら、部屋の中に無造作に飾られた市松人形や掛け軸などを勝手に弄りまわっている。
やがて黒谷と呼ばれた男性が戻ってきて、紙袋を師匠の前に置いた。
師匠が手を伸ばそうとすると、黒谷さんはスッと紙袋を引き下げて手の平を広げた。
五本の指を強調するようにウネウネと動かしている。
「五本は高い」 師匠が口を尖らせると、黒谷はボサボサの頭を掻きながら
「あ、そ」と言って紙袋を持って立ち上がろうとする。
910 :ビデオ 前編3:2009/08/06(木) 17:58:17 ID:TB5fOCDV0
「持って来たのはどんな人ですか」 間髪いれずに師匠が問うと、中腰のまま「中年のご婦人。
深い帽子にサングラス。住所不明。姓名不明。ブツの経緯も不明。でも供養料に足の指まで全部置いてった」と答える。
「二十本も?」 師匠が険しい顔をした。そして「わかりました」と言ってジーンズのポケットから出した財布を放り投げる。
黒谷は財布をキャッチして、紙袋をこちらによこした。
師匠は紙袋を覗き込み、小さく頷く。俺も思わず横から割り込むように覗いた。
袋の中に、一本の黒いビデオテープが見えた。
「足りねえ」 黒谷の声に、師匠がばつの悪そうな顔をして「今度持って来ます」と言う。
「今度っていつだ」気まずい雰囲気が部屋に流れる。
そんな空気を打ち壊したのは、他ならぬ寺生まれで霊感の強いTさんだった。
Tさんは部屋に入ってくるなり「破ぁっ!」と叫び、守礼門が描かれた紙幣を25枚、黒谷に差し出したのだ。
「立て替えてくれるのか?ありが…」師匠がお礼を言い終わるより早く、Tさんはビデオの入った紙袋をひったくった。
「神聖な寺の中で、学生にビデオを売りつけるなんてけしからん!しかも5万だと?なんていかがわしいんだ。これは俺が預かっておくからな!」
そう怒鳴ったTさんは呆然としている俺たちを残して、大事そうに紙袋を抱え部屋から出ていった。
寺生まれってやっぱり凄い。この時はまだ、そうは思えなかった。